おやすみなさい、小野田さん

ニュースで小野田さんが亡くなったと言っていた。終戦を知らず、30年近くもフィリピンの山の中に隠れていた小野田さん。帰国後はブラジルに移住して、その後日本に戻ってきて、最近では生きることや自然の大切さを教えたりしていたそう。享年91歳。

このニュースを見ながら、この前97歳の私のおばあちゃんに言われたことを思い出した。

時代はどんどん変わるから、深刻になり過ぎずに楽しく生きなさい。

私の詳しい仕事や暮らしぶりは知らなくても、どうやら最近はしょっちゅうアメリカに行っているらしい、ということは知ってるようで、その前はうつ病で会社を休職したり、会社を辞めてからは自由業をしていることも、多分何となくは分かっているのだと思う。だからこそ、このおばあちゃんの言葉はとても心にしみた。

おばあちゃんは、小野田さんよりも6歳上で、戦前も戦中も戦後も知って、インターネットやデジタルが氾濫する今の時代も知って、それでもまだ生きている。その人の口から「時代はどんどん変わる」と言われると、それはもうすごい説得力で、これは主観ではなく事実だとすんなりと思う。

今日、小野田さんのニュースを聞いてふと思ったのは、おばあちゃんや小野田さんの世代の人たちは、若い頃から今までの間に180度に近いくらい価値観や時代がガラリと変わった人たちなんだよね。それまで信じてきたことを、ほんの数日、数カ月で否定されたり、これからは違うと言われたり、多分そういうことがあっただろうと想像できる。そんな中を生き抜きながら世間を眺めていたら、「時代はどんどん変わる」と実感するだろうなと。

おばあちゃんが終戦を迎えた時、戦争に負けたアメリカに自分の孫が気軽に何度も行くようになるなんて思わなかっただろうな。でも、今の私の暮らしや生き方を何となく理解して受け入れながら、その上で「楽しく生きなさい」と言ってくれる有り難さ。懐の深さ。

その言葉を言われた日に「おばあちゃん、もうすぐ100歳やね。あと6年生きて、東京オリンピックも一緒に見ようよ」と言ったら、「いやいや、さすがに…」と苦笑してた。もう随分前から生きることには飽きたと言っているし、年々できなくなることも増えているし、体もあちこちガタが来ているけど、それでも限られた生活の中で楽しく生きているのが分かる。おしゃべり好きなおばあちゃんは、ケア施設の若いスタッフのプライベートとかもよく知っている。どうか少しでも長生きして、スタッフの裏話だけじゃない私の知らないことをもっと教えてね。